2013年に発売されたジョセフ・バリーの2枚組DVDを、日本語翻訳して1巻と2巻に分けて発売したものの2巻「ブルー」のレビュー。
前回の記事へのリンク先も一応貼っておきます。
https://frontier.creatia.cc/fanclubs/1077/posts/40826
大雑把な印象は1巻と同じで、カラーチェンジのようなビジュアルな見た目のトリックは少ないが、マジシャンが見ても不思議なカード当ての類が多め。というところは変わらない。
ただ付け加えるならば、1巻にあったトリックにスライトを加えていたり応用したりと、少し捻った感が出てきている。
またギャンブル演出のトリックや関係するスライトが多く、観た後に「この巻は全部ギャンブルトリックかぁ」と勘違いするほどでした(実際は違う)。
ちなみにですが、わたしは「ジャズ・ギャンブリング・デモ」と「ストリップ・アウト・シャッフル」が気に入りました。
LLLピーク
観客の選んだカード2枚を当てる。
1枚はピーク、1枚はフォースのような形になり、即席で出来て難度が非常に低いセルフワーキング。
これを見ているのと同時期にアラン・アッカーマンのレクチャーを見ていたのだけど、非常に良いカットフォースのヴァリエーションをやっていたのだけどそれと似ていて、プラスでもう1枚当てて且つデックが崩れない(トップとボトム位置が変わらないの意。アッカーマンのはカットされた状態になる)のが利点かなと。ただ錯覚はアッカーマンさんの方が強い。便利な技法だと思います。
ハミリー・フォースというトップカードのフォースも解説されているのだけど、リー・アッシャーのルージング・コントロールのような技法が好きな人にはかなり刺さると思う。難易度も大分低く実用的。
センター・ディール
適当に抜き出した5枚のカードを真ん中から配る「センター・ディール」を使って集めると宣言してデモンストレーション。その後、最初に観客が選んだ数字のフォー・オブ・ア・カインドも集まっている。
完全即席で出来るトリック。マイケル・ウェバー作品の改案らしいがそちらは未見。デモンストレーションで使うために取り出すカードは規則性を作れず、一般観客に見せるような雰囲気ではなく、マニアがマニアに技法を見せるときのようなあまり品の良くないカジュアルさがある。これを人前で上手くショーアップするのは中々難しそうだなーと。
ダイアゴナルパームを上手くなるための練習法が解説されてるので気になる人はそれも。
スタンダップ・ロイヤルフラッシュ/エース・セレクション
4人の観客がストップを掛けた場所のカードとマジシャンが選んだ1枚のカードをめくるとロイヤルフラッシュになっている(一段目)。
4人の1枚ずつ引いてもらうと全部A(二段目)。
『レッド』に収録されていた「シンプル・マス」にセッティングと技法を足して出来ることの幅を広げた作品。あまり動画向けではない対人向けトリック。一段目は良いと思うのだが、解説でトップにあるセットが顔を出さないようにするための方法について一切言及しないので、初心者なんかが見ると意味が分からなくなるような気がした。
二段目は、観客に配ったパケットに残っている4枚のAのスタックを、4回クラシック・フォースで引かせるだけなんだけど、バーマジシャンが実力誇示するためによく行っているのは見るけど、難易度どうこう以前に手品を初めて見るお客にすら「マジシャンは思い通りのカードを引かせられる」みたいな認識を強くするだけなので使い所はちゃんと考えたほうが良いんじゃないですかと思う次第。ラッピングもスリービングもフォーシングも、どれも強力な武器だけど、乱用しすぎて素人にすらバレてるマジシャンが多い。
ほとんどのマジシャンはバンジーガムを使いこなすヒソカ(ハンターハンター)のようなセンスを持ってないんだから、頭をもう少し使いましょうよと思いますね。異世界転生物の主人公かよと。
ジャズ・ギャンブリング・デモ
セカンド・ディールのデモンストレーションから、観客のストップを掛けた位置や出来ていたパケットのトップをめくると全部A(一段目)。デックをシャッフルしてもらい、スペード以外のAをデックに戻した後、カットしながらスペードの2からKまでを全部取り出していく(二段目)。
セットは覚えやすいが、技法は色々と必要なので多少難易度は高め。
セカンド・ディールのデモンストレーションがスタックを生き残らせるための策略に使っているのが賢いなぁと。観客が混ぜた後に二段目の現象を演じるので強い。
二段目のスート・アピアランスについて、カードの出し方は好きな方法を~ということで詳しい解説はないので(『レッド』で使っていたこの技法とかみたいな説明はある)、ある程度自分で考えれる人じゃないと演じるのは難しいけど、練習好きには良いと思います。
当然、他のマジシャンが発表しているスート・アピアランスにセカンド・ディールのアイディアを組み込むことも出来ます。
フォー・ストップ
観客が配るのと止めた位置にあったカードの残りのフォー・オブ・ア・カインドを即座に出す。
フルデックセットアップが必要。ちょっと不思議にオープナーでフォー・オブ・ア・カインドを揃えたいならどぞ。わたしはしない。
フェアー・ディール
観客にカードを配ると、一人の観客の手にフォーカードが揃っている。
本体はリフル・シャッフルを交互に噛ませるためのコツ。すでに出来る人間からするとアドバイスになっているのかどうかちょっと分からない。
トリックそのものについては、リフル・シャッフルするときに毎回トップが変わっていなくても気にならないタイプの人間であれば使えるのではないでしょうか。
観客に配る際、人数が2人か4人に限られるんですけど、4枚が連続してる状態でフェローすれば2枚毎、2回フェローなら4枚毎になるのを利用して行っているだけなので、リフル・スタックなんかに命かけてる人が見たらキレ散らかしそうな手順だなーと思いました。
演出で種明かし込みにしてやるならありなのかもしれません。
アウト・オブ・ディス・ワールド
観客が混ぜたデックを観客が自由に分けると赤と黒が綺麗に分かれている。
見た目はフェアなアウト・オブ・ディス・ワールド。
でもやるかと聞かれればやらない。同じ原理のOOTWにRoberto Mansillaの「Out standing」があるけどあっちの方が上質。バリーの手順はクロースアップ用にチューンされたようなハンドリングではあるものの、懸念点についての言及がほぼなく、人前で手品してたらよく突っ込まれる事象について、観客はそんなことに気づかない。なんて断言されてもねーと。
実演だとやってる保険掛けた動きを、解説ではそんなことなかったみたいな感じもうーん。後、合いの手で入る質問が的外れで、今回は雰囲気でやってんの?もしくは、ほんとは解説したくないから適当にやってる?と突っ込みたくなる部分が多かった。
解説の通り受け取るならば、考えが浅すぎるトリックかな。動きを信じるならばもっと考えてることあるけど隠してる感じ。
観客に1枚ずつ見せるパケット側には、最大で13枚(0から13くらいの範囲)ほどダブりになるカードが発生する。赤や黒といった情報だけの提示なら観客は気にしないだろうけど、めちゃくちゃマークや数字にフォーカスするような開示の仕方をしているので、万が一最初の4枚程度の中にダブりがあったら観客は気づく。
めくる前に最初の3枚くらいは見て確認してからめくっている動きがあったので、もし早い段階でダブりが出たら、追加で別のカードも掴んでまとめてめくるようなカバーを実際はしそうなもんだけど。
あと、ショーのトリで演じる前提のトリックと言っていたけど、割と特定のカードに思い入れがあって(もしくは演技中に出来て)執着するお客さんは多く、デックを表向きにしたときに、今は使っていないのにも関わらず「さっきわたしが選んだカード!」みたいな言葉をよく聞く。ショーが長ければ長いほど思い入れのあるカードをもつお客さんが増える。確率は一桁%程度かもしれないけど、そこは「ありえない」で目を背けていい場所ではないと思うんですよね。
そこをありえないで通すなら、開示の仕方を変えるか、カバーの動きを解説するか、もうひとつのダブっているカードのない別色パケットを上手く利用するとか、色々ありますよねーと感じました。
バリューズ
観客に2枚のカードを覚えてもらいデックに戻す。覚えたカードの数字の分カードを配ると覚えたカードが現れ、さらに残ったもう1枚の数字の分配ると残った1枚も出てくる。
完全即席で出来るトリック。
セルフワーキングと言い張っているけど、キーの作り方とか色々とスムーズに行うのは難しいと思うなー。ダニとかがやりそうなさりげない動きでのシークレットムーブが好きな人はどぞ。
マッチング・ザ・ポーカー・ハンド
観客の選んだカードを含めると出来るポーカーハンド(フォー・カード)を取り出す。その後5枚がロイヤルフラッシュに変化する。
マジシャンVSギャンブラーのように、一見関係なさそうなカードを取り出して置いていき、最終的には変化しているのでとても不思議だと思います。
ただ、最初に取り出すフォー・カードはロイヤルフラッシュを構成する10JQKAを避けるようにとのことだけど、最初に「君が選んだカードを含んだポーカーハンドを出すよ」「これがそのカードを含む中で一番強いかな」といったセリフを言ってるので、10JQKAを使ってフォー・カード出してからロイヤルフラッシュの方が綺麗に構成される気がするんだけどな。
メモリー・ポーカー
観客が覚えたカードを当て、候補として出していた4枚をめくると強いポーカー・ハンドになっている。
完全即席で出来るトリックで指先のスライトは必要としないけど、場数踏んでないと難しめ。ケース・バイ・ケースで観客にする質問をその場で即座に考えないといけない。クラシック・フォースをセルフワーキングと言い切るなら、これもセルフワーキングと言い切って良いと思うんだけど言わないのんなぁ。
こういう組み合わせの中だと、このカードは選ばれにくい。というような話は興味深かった。
スペクテーター・ポーカー・ディーラー
観客が混ぜてポーカー用に手札を配り、カードの交換も観客にしてもらうが、主役の観客の手札には4Aが揃っている。
ダニ・ダオルティスの『UTOPIA』のDisc4に収録されている「Missing Player」のヴァリエーション。端から見ていた(ダニの手順)ときは「ふーん」くらいの感想だったけど、実際に手伝わされる観客側としてダニの手順を演じられたときは「おーーなんでだー」となった経験を踏まえると、バリーの手順は1人の観客に全部やってもらう~といったコンセプトだと明言していたことを考えると、演出面では弱くなっているような気がします。
ただ、ダニがどうやっていたかは覚えていないけど、このトリックの根幹の部分の操作は綺麗に紛れておりとても良かった。スライディーニ味を感じましたことよ。
ダニの手順、今度確認しよっと。
メンタル・セレクション
観客が見て覚えたカードをカットして出す。
surefireではないガバガバな方法論だけど、割りと嫌いじゃない。
マジシャンは「そんなわけない」と思うが、観客は「こうなんじゃ?」と想像する手法そのままな気もするけど、ジャジーに手品する人は覚えておくと役に立つよね。
ディスカッション:ストリップ・アウト・シャッフルとテーブル・ファロー・シャッフル
タイトル通り。ストリップ・アウト・シャッフルの方は珍しいテーブルでリフル後に、そのまま揃えずテーブル上でウォーターフォールするフォールスシャッフルになっている。意外とこのタイプあんまり見ないですよね。
テーブル・ファローはノーコメントで。普通以外のコメントが思いつきません。